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  • 執筆者の写真Aloha-boy

ビクトリアフォールズ        ジンバブエ ザンビア国境

更新日:2023年6月8日


この撮影で死ぬのだな、

と思ったことが一度だけある。

ビクトリアフォールズだ。

明日の早朝に飛ぶ。

『腕利き交渉人ツアーガイド」にそう言われた。

朝は風がない、というのがその理由だ。

そして当日、飛行場に向かう車の車窓から

見える木々が大きく風に揺れている。

嫌な予感。手のひらに汗がにじむ。

飛行場に着くとパイロットらしき男性が

僕らを見て、顔をしかめて首を振った。

​飛べないよ、という表現なのは誰が見てもわかる。

万国共通なのだ。

そこで腕利き交渉人ツアーガイドは

パイロットの肩を抱き、建物の裏へと消える。

​しばらくすると走ってきて、大きく腕を回し言う。

「カワダサン、OK!飛んで飛んで!』 「こんなところで交渉力を発揮するんじゃないよ、

 このヒトゴロシー!!」

と叫びたいところではあったが、

​仕事である以上、行かざるを得ない。

「この風で大丈夫なの」と尋ねる。

「ダイジョウブ、ダイジョウブ。

今まで一回しかオチテナイ」

一回落ちてんのかい!!

​と叫ぶ僕のことなどお構いなく、

フライトスーツを渡されると シートベルトに無理やり固定された。

「ヒトゴロシー!!」


プレーンは一気に離陸すると機首を風上に向けて、

斜めにスライドするように飛ぶのである。

あまりにも強風すぎて、まっすぐに飛べないのだ。

​やがて大地がパックリと割れた巨大な滝が見えてくる。

怒涛のごとく流れ落ちる巨大な水の塊が 滝底で行き場を失い、空に向かって吹き上がる。 パイロットが機首を進行方向に振った瞬間、 風に煽られ一気に滝壺に向かっていく。

水と共に吹き上がる気流が乱れているのか、 エアポケットに入ってしまったのか、 ライトプレーンは真っ直ぐに滝壺に落下していく。 ああ、死ぬのだな、と思った。

水面に叩きつけられて、

ワニやカバのエサになるのだ。

みんな今までありがとう!

もうすぐ割れ目から滝壺に入ろうかとする瞬間、 機体からミシッという音がして、大きく揺れた。 翼がしなり、大気を捉えたのだ。 ヘルメットのスピーカーから

「ソーリー、ソーリー!」と

震えたパイロットの声が聞こえる。


ヘルメットのシールドを下げたままだと

ファインダーが覗けないので強烈な風圧の中

シールド無しで撮影。 目から涙が流れっぱなしで

像が滲んでほとんど見えない。 パイロットが僕の膝を叩くと

滝に向かって指を差す。 見ると水面ギリギリをライトプレーンが飛んでいる。 おお、いい感じ!

​涙で滲んだ目で撮りまくる。

ピントが合ってるかどうかだなんてわからない。 今はとにかく、シャッターを切り続けるしかないのだ。

そしてそれは表紙になった。

あれほど怖かったのにも関わらず

あの時の高揚感は忘れられない。

もし同じような機会があれば乗るか、と尋ねられたら、​​ 間違いなく「乗る」と答えるだろうと思う。


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