この撮影で死ぬのだな、
と思ったことが一度だけある。
ビクトリアフォールズだ。
明日の早朝に飛ぶ。
『腕利き交渉人ツアーガイド」にそう言われた。
朝は風がない、というのがその理由だ。
そして当日、飛行場に向かう車の車窓から
見える木々が大きく風に揺れている。
嫌な予感。手のひらに汗がにじむ。
飛行場に着くとパイロットらしき男性が
僕らを見て、顔をしかめて首を振った。
飛べないよ、という表現なのは誰が見てもわかる。
万国共通なのだ。
そこで腕利き交渉人ツアーガイドは
パイロットの肩を抱き、建物の裏へと消える。
しばらくすると走ってきて、大きく腕を回し言う。
「カワダサン、OK!飛んで飛んで!』 「こんなところで交渉力を発揮するんじゃないよ、
このヒトゴロシー!!」
と叫びたいところではあったが、
仕事である以上、行かざるを得ない。
「この風で大丈夫なの」と尋ねる。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ。
今まで一回しかオチテナイ」
一回落ちてんのかい!!
と叫ぶ僕のことなどお構いなく、
フライトスーツを渡されると シートベルトに無理やり固定された。
「ヒトゴロシー!!」
プレーンは一気に離陸すると機首を風上に向けて、
斜めにスライドするように飛ぶのである。
あまりにも強風すぎて、まっすぐに飛べないのだ。
やがて大地がパックリと割れた巨大な滝が見えてくる。
怒涛のごとく流れ落ちる巨大な水の塊が 滝底で行き場を失い、空に向かって吹き上がる。 パイロットが機首を進行方向に振った瞬間、 風に煽られ一気に滝壺に向かっていく。
水と共に吹き上がる気流が乱れているのか、 エアポケットに入ってしまったのか、 ライトプレーンは真っ直ぐに滝壺に落下していく。 ああ、死ぬのだな、と思った。
水面に叩きつけられて、
ワニやカバのエサになるのだ。
みんな今までありがとう!
もうすぐ割れ目から滝壺に入ろうかとする瞬間、 機体からミシッという音がして、大きく揺れた。 翼がしなり、大気を捉えたのだ。 ヘルメットのスピーカーから
「ソーリー、ソーリー!」と
震えたパイロットの声が聞こえる。
ヘルメットのシールドを下げたままだと
ファインダーが覗けないので強烈な風圧の中
シールド無しで撮影。 目から涙が流れっぱなしで
像が滲んでほとんど見えない。 パイロットが僕の膝を叩くと
滝に向かって指を差す。 見ると水面ギリギリをライトプレーンが飛んでいる。 おお、いい感じ!
涙で滲んだ目で撮りまくる。
ピントが合ってるかどうかだなんてわからない。 今はとにかく、シャッターを切り続けるしかないのだ。
そしてそれは表紙になった。
あれほど怖かったのにも関わらず
あの時の高揚感は忘れられない。
もし同じような機会があれば乗るか、と尋ねられたら、 間違いなく「乗る」と答えるだろうと思う。
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