Aloha-boy
今でも覚えていること
更新日:8月30日
フリーになって間もない頃、苦手な男性編集者がいた。
言葉になんというか、トゲがあるというか、ぶっきらぼうな響きがあって、
一緒に仕事をしていると僕はずっと苛立っていた。
そんなフィーリングは相手にも伝わっていたと思う。
それなのに、よく仕事の依頼があった。
断る理由もないので、仕事はした。
そしていつも険悪な雰囲気の中で撮影をした。
その日は物撮りの撮影だった。
女性誌だったので、小物のようなものを撮っていたのだと思う。
当時はまだフィルムで、その日のカメラは絶好調だった。
巻き上げが軽い。
調子いいなーと撮影を進めていた。
それなりに撮り進めた時、我ふと思う。
フィルムが巻き戻らない・・・。
普通は36枚撮り終わると自動的に巻き戻るようになっている。
まさか・・。
まさか!
おそるおそるカメラの液晶を覗き込む。
普通はそこに数字が書いてある。
34枚まで撮りましたよ、みたいな。
そこにあったのは「E」・・・。
見なかったことにして、もう一度覗き込む。
やはりエンプティ、空のE!
フィルムが入っていない・・・。
カメラを持つ手が震えだす。
ヒザから崩れ落ちそうになる。
そりゃ巻き上げも軽いはずだ、入ってないんだから。
よりによって、この編集者の時に。
全力で言い訳を考える。
自分の中の全英知をかき集め(大した英知ではないが)
この困難を乗り切れる知恵を、激しく熟慮する。
震えるヒザを支えながらだ。
しかし見つからなかった。
どうやってもこの状況を誤魔化す手段は見つからなかった。
もう謝るしかない。
僕は状況を説明し、
申し訳ありませんでしたと深く謝罪した。
「バカ野郎!何やってんだよ!」
という言葉を僕は覚悟したが、返ってきた言葉は
予想もしないものだった。
「ああ、そうですか。じゃあ、また初めからやりましょう」
彼はそう笑顔で言った。
それから僕たちは急速に仲良くなった。
他の誰よりも親密になったくらいだ。
何が好転のキッカケになるかなんて、わからない。
でも半年ほどして彼は仕事を辞めた。
それとなく聞こえてくる話によると
職場の人たちと折り合いが悪かったということだった。
「被写体はあなたの鏡だから」と言われたことがある。
あなたが心を開いていないのに、相手に開け、
というのはやはり無理がある。
それゆえ心の障壁のようなものを
取り払おうと常々心がけてはいる。
でもなかなかうまくいかないことも多いし、
人間、感情があるので、緊張もするし、腹が立つこともある。
でもこれまでの経験で学んだのは、結局のところ、
最後は素直に話すしかない、ということなのかもしれない。
その言葉が自分たちにとって触れたくないものであったとしても
そうすることによって前進し、解決させていく、あるいは終わらせていく、
というきっかけになることは多いのだろうと思う。