昔のハードディスクの中に
20年以上前の日記を見つけました。
下手な文章ながら、笑えるものがいくつかあったので
いくつかご紹介できればと思います。
「その1」
さっき天王寺郵便局の深夜窓口で荷物の発送手続きをしていたら、
正面に巨大なベンツが滑り込んで来た。 車から出て来た男は身長190cmくらい。
黒いダブルのスーツを着た元力士の曙(Yとする)のよう。
普通の人でないのは子供が見てもわかる。
さーっ、と局内の空気が変わる。
手には自転車が入るほどの大きなナイロンのバッグ。
子供なら2人は運べそうだ。
どすんとカウンターの上にバッグを置く。局員(Kとする)の顔は引きつる。
以下、会話。
Y「この荷物、送ってくれや」
K「このまっ、このままですか」
Y「せや。なんか文句あるか」
K「いえっ、これだと発送伝票がはれまっ、貼れませんので」
Y「そんなもん、工夫せいや」
K「はいっ、でっ、送り先は国内ですよね」
Y「香港や」
K「そっ、それだと鍵を付けていただかないと盗難の恐れとかが .....」
Y「ほう・・」
K「とっ、ところで中身はなんでしょうか」
Y「それは言われへん」
K「 ・・・・・」
Y「ワシも見てへん。この荷物預かってそのまま持って来たんや。見たらなぁ、ややこしい事になんねん。分かるか」
K「でっでっですが、中身を言っていただかないと ... 」
Y「そこを何とかやってくれって言うとんじゃぁ(もっともドスの効いた低い声で)」
僕はそこで静かに郵便局から脱出。
あのバッグには何が入ってたんだろ・・・と夜道で考える。
見たらややこしくなるって、何だ。
「その2」
今日は神社の撮影。 初詣の人の数は日本でも3番だが、4番だかのおっきな神社。 当然、敷地がでかいので移動は大変だ。 本殿、参道、社務所など、建物が点在していて、 なおかつガタガタの石段があり、玉砂利があり、木の階段があり、 おまけに建築物は重文か、何かで気を遣うし、 それらの障害を大荷物を抱えてアシスタントと移動。 もう指がちぎれそうだ・・・。 モデルを1カット撮るたびに背景をかえるので、 僕たちはいつもハァハァと肩で息をしてる。
僕はアシスタントに言う。 「デジカメ!、いや35mmのカメラくれ、感度100の方な。ハァハァ。 ちょっと待てよ、 やっぱ400だ。スペアに400詰めてくれ。ハァハァ。 いや、でもポラ代わりにまずデジカメだ。
先にアングルを決めよう。ハァハァ」 モデルを立たせ、カメラを固定。そしてディレクターが言う。 「あのう、これブローニーなんですけど」 僕は気を取り直し、アシスタントに言う。 「やっぱブローニーだ。フィルムを詰めてくれ。ハァハァ」 ライトを決め、ポラを切る。2分後、アシスタントは言う。 「今回はローキーでいくんですか。フゥフゥ」 僕はポラちらりと見て、露出計に目をやる。
100のフィルムなのに400の設定になってた。 「ポラ。もう一回。ハァハァ……..」
「その3」
五感の記憶・音について。
そういえば忘れられない音があった。 僕は20歳の頃、アメリカ大陸を車で1万キロ走ったことがある。 5万円で手に入れたオンボロのダットサンだったが、今思うとかなり無謀な旅だった。 その夜もずいぶん疲れ果てていた。 何しろ毎日に何百キロも走るのだ。 半ば、ぼーっとした気持ちで夜の森を走っていた。 すると突然、林の中から動物が飛び出して来て、それはドンドンと音を立てて、僕の車の底を転がっていった。 その時、足に伝わった振動の感触は今でも思い出せる。 僕はUターンすると車を降りて横たわる動物の元へ駆け寄った。 つややかな毛並みをしたシルバーフォックスが、
少しだけ目を開けて、大きく息をしていた。 なんでもっと集中して運転しなかったのかと後悔した。
ひざが震えていた。 車がやって来たので、僕は慌ててそれを両手で抱え上げると道路の脇に寄せた。
とても温かい感触が手のひらに伝わってくる。 そのキャンピングカーは停車し、中から男性が降りて来てキツネを見た。 どうするんだ。病院に連れていくのか、と彼は言う。 次の町まで100キロ。 苦しむ動物を車に乗せ、深夜に到着した知らない外国の片田舎で
動物病院を探し、そこに連れていくということ。 それを考えた時、僕は絶望的な気持ちになった。 彼は何も言わずに車に戻ると小さな拳銃を手にして帰って来た。 僕はキツネの頭に銃口を向ける彼を静止し、このままにしておきたいと懸命に主張した。 でも彼は、このままだと苦しむだけだから、殺してあげた方がいいんだ。
お前が悪いわけじゃない、気にするな、と言った。 僕は立ち上がって夜空を見た。 とてもそんな光景を見ていられなかったのだ。 パーンという火薬の音が森の中に響いて、夜空に抜けていった。 「Don't worry. take it easy!」 彼は僕の肩を叩くと車のクラクションを鳴らしながら、走り去った。 静かになった森の道の真ん中で僕は立ち尽くす。 視界の端の暗闇にはキツネの影が見える。 僕はそちらを見ないようにして、車に乗り込み発進させた。 この時にした選択について、僕は今でも考える。 本当はどうやってでも病院を探すべきではなかったのか。 そうしていれば、こんな気持ちを今なお、抱えていることはなかったのだ。 でもそれは僕のわがままなのかもしれない、とときに思う。 何しろキツネは苦しんでいたのだ。 早く楽にして欲しいと彼は思っていたのかもしれないのだから。 あれ以来、拳銃の音は耳にしていない。 もしまたパーンという火薬の音を聞いたら、
僕はあの夜のことを思い出すのだろうか。
「その4」
夢にゴジラが出て来た。 正確に言うとゴジラを見たわけではない。 ゴジラの形跡を見たのだ。 朝、スタジオに行くとビルがゴジラに踏みつぶされていた。 僕は慌ててホコリまみれの階段を駆け上がる。 僕のスタジオのフロアーはかろうじて残っていた。 ただ屋根はないのだ。 青空が見えている。 僕は瓦礫の中にパワーマックを探す。 あの中には納品を急かされている未加工の2ギガ分のデータが入っているのだ。 だめだ、見つからない。 言い訳を考える。 ゴジラに踏みつぶされたでは説得力がない(夢の中では)。 ゴジラに奪われたではどうだろう。 あのマックの中にはゴジラの秘密が隠されていた。 これはかなり説得力がある。 そんなことを考えていたら、前の公園の木の枝に僕のマックがぶら下がっていた。 あー、あんなところに。 でもとても届きそうにない。 災害でみんなが走り回っている時に、
マックのために梯子車を出動依頼するのも気が引ける。 あー、どうしよう、と思っていたら、アルバイトがあったことを思い出す。 そうだ、僕はそば屋でバイトをしていたのだ。 すぐさまオートバイにまたがり「そばの信濃路」に向かう。 僕のオートバイは1200ccのVーMAXだ。 「そばの信濃路」に向かっていたはずなのに、気が付くと集団で信州を走っている。 まわりはみんな宇崎竜童(こんな字?)みたいなイージーで
チョッパーなライダーばかりだ。 爆音と奇声をあげて峠をローリングする。 俺たちゃ不良なんだ。 すごく悪ぶっているのだけど、頭から2ギガのデータのことが離れない。 怒られたらどうしよう、と思っている。 「その5」
最近、ゲイバー?(間違ってたらごめんなさい)を経営する
女性っぽい男性を撮影する機会があった。 何か、話の流れで失業したら何をするかという話題になって、
僕が考えていたら彼が言った。 「うぅん。うちに来ればいいわよぉ~ん」 「えっ、本当ですか」 「ただし面接はハ・ダ・カ」 「 ハダカっ!パッ、パンツははいててもいいんですか」 「うぅん。ダメダメぇ。全裸よぉ」 「・・・・・」 「その6」
助手席のアシスタントが言う。 「川田さんはもしお金持ちだったら、どんな人生を歩みたいですか」 もしお金持ちだったら、という問いかけ自体、
僕がお金持ちじゃないという前提の上に投げかけられた言葉だから、 ちょっとムッとしたものの、確かにその通りお金持ちじゃないので、
そのまま話を続けることとする。 『オレがもし生まれ変わって働かなくていいほどの資産家だったら、
トレジャーハンターになりたいぜ。 いわゆる一攫千金、宝探しをする人だ。 考えるだけでわくわくする。 でもオレは土を掘り起こして、ダイヤモンドを探すようなことはしない。 オレの舞台は海だ。 場所はインド洋(深い意味はない。何かカッコ良さそうだから) 金塊を積んで沈没した船の情報をあるルートから入手する。 そして金をバラまいて腕利き船長とダイバーを雇う。 オレ様の巨大なクルーズ船で金属探知機を使い、砂に埋もれた沈没船を探すのだ。 アロハシャツ姿でまわりはインド洋のサンゴ礁。
(浅瀬に沈没船があるかどうかはわからないけど、何だか気持ち良さそうだから) 夜は船のテーブルの上に宝地図を広げ、くわえ葉巻きとコンパスのようなモノを片手に、 船長やダイバーたちと潮の流れを計算し、綿密に沈没船の場所を突き止めていく。 考えるだけでゾクゾクするぜ。 海がシケると港に戻り、ホテルでリゾートな時間を過ごすのだ。 タキシードを着てカジノにも向かうし、ルーレットを回したりもする。 ベロベロに酔っぱらい皆を油断させながらも、
天気が回復する話を耳にするとキラーンと目が輝く。 まあ、ジョージ クルーニーみたいな感じかな。』 そんな話をアシスタントにすると彼女は言う。 「映画の見過ぎじゃないですか。あほくさ」 「・・・」
「その7」
このあいだとは違うアシスタントとメシを食べてる。 今週のギャラリーは誰だったかなぁ、という話題。 確か女子高生の青春を題材にしたような写真展をする女の子だった。 おそらくその時代に特別な思い入れがあるのだろうと思う。 でも何だかその気持ちもわかるなぁ、と僕は言う。 どうわかるんですか、とアシスタントは尋ねる。 『まあ俺の世代にはたくさんいると思うんだけど、
もし叶うものならステイツで学生時代を過ごしてみたかった。 場所はカリフォルニア。 いわゆるゴールデンステイツだ。 ダンスパーティーには愛車の67年製 マスタングで乗り付ける。 カラーはレッドで、もちろんトップは潮風感じるオープンなのは当然。 オレ様はフットボールのスタープレイヤーで彼女はチアリーダー。 名前はルーシー』 アシスタントは唐揚げ定食をほおばりながら言う。 「映画の見過ぎじゃないですか。 あほくさ」 「・・・」
「その8」
昨日、京都に向かう高速でバナゴンを見た。 バナゴンは昔、僕が7,8年乗っていたワーゲンのワンボックスだ。 気に入っていたのだけど、走行距離が多く、故障も増えてきて泣く泣く手放した。 その車は追い越し車線を走って来て、僕の横を通過していった。 ナンバーは8846。 僕が乗ってたバナゴンだ。 懐かしいなぁ。 しばらく追いかけてみたけど、交通量が多くて、見失ってしまった。 まだ元気に走ってるんだと思ったら、感動した。 車には思い出が詰まってる。 どれだけたくさんの人を乗せただろう。 そしていろんなところを旅をしたのだ。 別れる前に京都御所で写真を撮った。 変だけど僕が一緒に写った写真もある。 たくさん車を乗り継いだけど、これほど思い入れが強かったのは初めてかもしれない。 僕をたくさんの場所に連れていってくれたことを本当に感謝しました。 性格的に機械に思い入れを持つことはないと思ってた。 でも昔、カメラを盗まれたときの喪失感はよく覚えている。 不思議だったのはライカを失ったことよりも、
キャノンを盗まれたことの方がショックだったということ。 ライカは素敵なカメラだけど、キャノンは共に戦う仲間だった。 どんな大変な現場も一緒に乗り越えて来た。 すごく大切な仲間だったのだ。 単なる仕事道具だと考えていたキャノンが盗まれて、
僕は初めてそのことに気が付いた。 愛着というのは何も高価であるとか、作りがいいとか、そういう類のものではなかった。 どれだけ濃密な時間を共有し、記憶として刻まれているのか、
そんな複雑な感情が心理の底の方にあるのかもしれません。
「その9・東京営業」
今回、東京ではたくさんの人々に会ってもらい、
みなさん暖かく迎え入れてくださりました。
ブックを見て貰ってるときも真剣にダメだししてくれる。
でも救われるのはその言葉に愛を感じるということだ。
本当に僕のことを考えて、言葉を発してくれているのが伝わって来る。
とにかく初めは何でもやりなさいと皆が口を揃えて言う。
ブックについて言われたことは、
もうみんな本当にバラバラなんだけど(笑、
とりあえず箇条書きに。
見開き写真が真ん中で切れてるのが気になる。
この写真の何がいいの(笑
人の表情がいいね。
この写真はいらないよ。
何かが足りないね。
スキがない。
あなたは写真が上手です。
きれいなだけじゃダメだよ。
もっと引っかかりたい。
100人の人と会いなさい。
構成し直した方がいいね。
あなたは人柄がいい。
あなたは運の強い人なの?
人を大切にしなさい。
人との繋がりを大事にしなさい。
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